めはくちほどに


ここ数日姿さえ見ていなかったので、声も出ないほど驚いた。

「紺野さん?」

「驚きすぎて、心臓と呼吸が止まりそうでした。副社長、電車に乗ったりするんですね」

「いや、僕も人間だからね」

涼しい笑顔を見せている。でも今日は最高気温35度、夕方なのに首筋の汗が止まらないくらい暑い。

「副社長の家、こちらなんですか?」

「ううん、反対」

上りの方だと言っている。都心に住む人はこの暑さにこれまで耐えてきたから、そんな爽やかでいられるのだろうか。

「紺野さん?」

「……あ、はい」

電車が来た。二人で乗り込む。