「あら、彩世(あやせ)ちゃん、学校帰り?」
「はい。テスト終わったので」
「そうなのね〜学校、頑張ってね」
学校からの帰路。
いつも通り、おばちゃんと挨拶を交わす。
いつも通り。いつも通りの日々。
まぁ、少し変わったことと言えばーー。
「ただいまー」
「あ、お帰り。唯架(ゆいか)」
1LDKの我が家に、新しい住人が増えたことだ。
しかも、いわく付きの。
私は、素早く扉を閉めた。
「咲紅(さく)!向こうの部屋にいてって何度も……」
小さな声で叱咤し、リビングに押しやる。
「ごめん……」
絵文字のしょぼーんみたいな顔になる咲紅。
出迎えるだけで怒ることには、理由がある。
別に恥ずかしいとかではない。
「はい、郵便物」
荷物を下ろし、ソファーに身を沈めた私に渡されたものは、ピザ屋のチラシやら市の新聞やら。そして、黄色のチラシ。
黄色のチラシを睨む。
『京美 咲紅(みやび さく)過激思想保有者 見つけたら警察まで』
そして、色素の薄い茶色の髪と瞳が印象的な青年の写真。
つまり、目の前にいる咲紅の写真だ。
「わぁ。またそれかぁ」
と、当の本人はのほほんと、何の焦りもない。
咲紅は犯罪者だ。
今の日本は、昔みたいに思想の自由は許されない。
宗教や思想は統制された。
異を唱える者は犯罪者。例え子供であっても。
そんな世の中に咲紅がインターネットで発表した、今の世の中に異を唱える文章。
咲紅は、すぐに身元を特定され、両親に警察に突き出されそうになった所を逃亡。
で、昨日、路頭に迷っていた咲紅を匿った。
咲紅は、同級生で、幼馴染みだ。
私の家族は、私が幼い頃に飛行機事故で亡くなり、祖母の家で育てられた。
保育園や小学校では、そのことで虐められたけど、咲紅は一緒にいてくれた。
そんな咲紅に恩返しがしたいし、間違っているのはこの世の中で、咲紅は悪くないと私は思ってる。
だから、私は彼を、京美 咲紅を匿う。 それが犯罪行為であっても。
「……唯架?大丈夫?」
私は、いつの間にかポスターをくしゃくしゃにしていた。
「……あ、ごめん。何でもない」
ポスターを近くのゴミ箱に放り込んだ。
「……そっか。あ、ご飯作ろ!カレーでしょ?」
と、咲紅は無邪気な笑顔を私に向けた。
「はいはい」
これから始まる、私と優しい犯罪者の同居生活。