何がどうってはっきり言えないのだけど、湊くんはやっぱりどこかテンポが人と違う。
意外とスペックは高いのに、とにかく覇気がない。

「おい湊! 今日の立役者なんだからもっと自慢気にしたら? 謙遜し過ぎは嫌味だよ」

湊くんはうんざりした様子で仕事の手を休めず、私の方も見ないまま、それでも返事だけは律儀に返した。

「だから別に大したことしてないって。面倒臭いからもう忘れて」

「欲がないな。あんたの人生は、生まれた瞬間から余生なの?」

手近にあるファイルを重ねて、簡易的な凱旋門を建設することに集中していた私は、脳を使わずにそう言った。

「余生……」

湊くんは手を止めて、ディスプレイとキーボードの隙間辺りに視線を落としながら、私の言葉を反芻した。

「うん。俺の人生は余生だよ」

湊くんの言葉に、隣の席の岩本さんがふっくらとした身体を揺らす。

「それはよくない! きっと肉が不足してるんだよ。よし、湊くんを労って今夜はみんなで焼き肉だ!」

「岩本さーん、体調不良はどうしたんですか?」

目を細めて睨んだのに、岩本さんは視線を跳ね返すように力強くうなずく。

「大丈夫! トイレに持って行かれた分補給しないとね!」

「持って行かれっぱなしにしたらいいのに」

岩本さんの二の腕と背中の境目にある肉溜まりをむぎゅうっと握ると、身をよじって振り払われた。

「今井さん、まるで俺が太ってるみたいに聞こえる言い方しないで。それに肉では太らないんだよ? 太る最大の要因は糖質なんだから」

「じゃあご飯は食べないんですね?」

「ご飯食べない焼き肉なんてある? ない!!」

クソ真面目に言い切った岩本さんのお腹に、美里さんがクリップボードの角を押し込む。

「いいじゃなーい。みんなで行こう! 岩本さんのおごりで」

グリグリめりこむクリップボードをそっと押し返して、ひきつった顔で後ずさる。

「課長! 課長も引っ張ってくるから!」

岩本さんが課長(の財布)に声をかけ、課長の号令で正式に、課の飲み会が焼き肉店で開かれることになった。