ガツン!!
気がつけば俺は坂井をグーで殴っていた。
坂井が地面に倒れこむ。
「あ‥絢人‥お前‥!」
一成が驚きの声をあげる。
こんなにも腹が立ったのは始めてだった。
なぜか、俺の目からは涙が溢れてきた。
震える声で俺は続ける。
「一成がどれだけ悩んでたのか、お前考えたことあるのかよ!!一成は何もかも全部、一人で背負って野球も楽しめなくなって‥!」
「バカ!絢人、やめろ!」
一成が止めるが俺は続ける。
「それなのに‥俺らは‥そんなこと知らずにのうのうと野球やって‥全部、一成のやって来たことを無駄にして‥俺を含めてみんな最低だと思う。」
涙をふきながら俺は決意する。
「だから、俺はもう1回みんなとやり直したいと思う。俺は、一成の言うこときついと思うけど間違ってないと思うよ。一成は間違ったことなんて言わない。いつも俺らを正しい道に導こうとしている。だから、俺は一成を信じてみたい。一成となら甲子園だって行けそうな気がするよ。」
俺はそこで一成を見る。
一成の目は赤くなっていた。
「うまく、まとまらないけどさ‥俺は一成についていきたいと思う。最後まで戦いたい。‥そのために、みんなの力が必要なんだ。お願いします。みんなの力を貸してください。」
俺はみんなの方を向いて頭を下げた。
「‥何‥かっこいいこと言ってんだよ‥。人のこと殴っておいて、よくそんなことが言えたもんだ。」
坂井が殴られたところをおさえながら言う。
「そ‥それは‥ごめん。思わず‥てか、つい?」
「‥‥俺こそ、ごめん。一成がそんなに悩んでるなんて知らなくて。一成は俺らのこと嫌いだと思ってたから。だから‥ずっと俺らに当たってるんだと思ってたんだ。‥ごめん、一成。部活もずる休みしてごめん。」
「俺もごめん!」
「一成、ごめん!!」
みんながそれぞれ一成に頭を下げて謝った。
「みんな‥頭、上げろって。俺は気にしてないから。」
そう言いつつも一成の目からは涙が溢れだしていた。
そして、坂井がなおも続ける。
「一成、俺にもう一度チャンスをください。俺は真面目にするし悪口も言わない。だから甲子園に連れていって下さい!」
「お願いします!!」
みんなも言う。
「‥甲子園は俺の力だけじゃ行けねぇよ。みんなの力も必要なんだ。よーし、行くんだったら今日からみっちりやるぞ!俺は思ったこと言うから逃げるんじゃねぇぞ!!」
「望むところだ!!!」
昼下がりのグラウンドにみんなの熱い決意があふれたのだった。
俺は五時間目の授業のために教室に戻ろうとしたが‥
「絢人、来いよ!」
そう言うなり一成が俺の手をひいて屋上に連れていった。
屋上には授業前なのか人がいなかった。
「ちょ‥ちょっと、一成!授業に遅れるよ!!」
「今日ぐらいサボろうぜ。お前、頭いいんだから1回ぐらい休んだってバチは当たらないよ。」
「俺より賢いやつが何、言ってんだよ。仮にも俺ら今年、受験生だろう?」
「まぁ、細かいことは気にすんなって。」
本当に一成は自由な奴だ。

