「…なんで、そんな無理するのよ。アンタを幸せにできる人なんて、もっと他に、たくさんいるわよ…」
近海くんがじっとわたしたちの会話を聞いている中、珠理は悔しそうに顔を歪めている。
この人はいつもそう。リョウちゃんのことが絡んでいるわたしを見るときは、いつもこんな顔をする。
「…うん、そうだね。でも、今のわたしには、リョウちゃんしかいないの。中学の頃から、ずっとそう。…珠理だって、ずっと好きな人がいるなら、少しは分かるでしょう?」
「…っ」
元カノさんが言っていた言葉を思い出す。「この言葉を出したら、何も文句言えないでしょ」と思って、口に出してしまったというのは少しあるけれど、でも事実ならいいよね。
珠理だって、誰かのことを、本気で好きになったことがあるなら、分かるよね。
…かなわなくても、つらいことが多くても、好きだって気持ちは、分かってくれるよね。
「…めご、アンタずるいわよ」
「ごめん。でも、こうでも言わないと、この手、離してくれなさそうだったから」
「…」
明るく振舞ってみせた。最近、この人の前では全然笑えていなかったから。
クッと口を上げてみる。背が高いから、首を真上にあげて、珠理の目を見て笑った。
珠理は、少し驚いた顔をしていたけれど、そのまま手首を掴んでいた手をわたしの頰に寄せて。
「…じゃあ、その代わり約束」
…そう、囁く。
「…何かあったら、必ず連絡をすること。アンタが笑ってるなら、アタシは文句は言わないわ。けど、1人で泣くようなことは、もうしないで欲しいの」
「…うん」
「前に、電話番号教えたでしょう。そこにかけてきて。すぐに向かうから。じゃないと、心配で眠れない」
…“眠れない” なんて、本気でそう言ってくるから、思わず笑ってしまいそうになる。
けど、珠理はきっと、本気でそう思ってる。



