「…めご、」
珠理と近海くんの教室、E組を出ようと、再び鞄を持ったとき。
さっきまで優しくわたしの髪を撫でていた珠理の手は、わたしの手首を力強く握っていた。
…少し、痛いと思うほど、強く。
「…アンタ、あの人に会うの…?この間、何されたか分かってる…?」
「…」
——ああ、そういうことか。この間、江ノ島で珠理には見られてしまったから。
リョウちゃんが、わたしを叩くところ。
だから、さっきまで笑っていたのに、そんなに心配したような顔をしているんだ、この人は。
…そういうところ、本当にやさしいよね。
「…大丈夫だよ、珠理」
「…」
こんなことをいくら言っても、この人は納得しないんだろうな。
きっと、それでもリョウちゃんのところに行くわたしを、馬鹿だと思うんだろうな。
「…珠理、わたしね」
「…」
「実は、今までも、ずっとそうだったの。ずっと、リョウちゃんとはそうやって付き合ってきたんだよ」
—— 今まで、人には絶対言いたくなかった。
だって、こうやって余計な心配をかけさせるし。聞く人によっては、そんな人と付き合うなんて馬鹿だって思う人だっているだろうし。
だから、誰にも言わないで、ただ1人で耐えていけばいいって思ってた。リョウちゃんのことを理解できるわたしが、分かってそばにいてあげればそれでいいって思ってた。
…けど、いつもわたしを本気で心配して、こんな顔を向けてくれる人もいるんだって、本当は少し、気づいていたよ。
「…珠理、ありがとう。大丈夫」
だから、わたしだって少しは、ちゃんと珠理に話さなきゃ。



