【着信:リョウちゃん】
「…リョウちゃん?!」
スマホに映し出された文字に、どきんと心臓が跳ねる。2週間ぶりくらいに見た文字。この時間に電話って珍しいけど、それでもやっぱり、嬉しい。
自分のクラスではないけれど、わたしのクラスまで戻っていたら電話が切れてしまうと思って、そのまま廊下に出て通話ボタンを押した。
「…リョウちゃん?」
『…あ、めご。おはよう』
「おはよう、リョウちゃん」
久しぶりに聞く声は落ち着いていた。相変わらず柔らかくて優しい声だけれど、その中にはこの間のことがあったからか、なんだか申し訳なさも含んでいる。
「どうしたの、こんな朝早くから」
『…ん。この間のこと、謝りたくて。今日の放課後、会えねーかなって』
「今日?うん、いいよ!」
放課後、リョウちゃんが会おうと言ってくるのは珍しい。いつも塾とか課題とかで忙しくて、あまり平日は会えないから。
制服のリョウちゃんを見るいいチャンスだ。それよりも何よりも、リョウちゃんから「会おう」と言われたことが嬉しい。
「じゃあ、5時に鎌倉駅西口ね。うん、わかった、待ってるね」
時間と場所の約束だけして、通話を切った。思いがけない朝の出来事。こんなことになるなんて、思わなかった。
「お?めごちゃん、カレシから電話?」
電話を切ると、しんとしている廊下に気づく。まだ、教室には2人しかいなかった。
廊下でスマホとにらめっこしていたわたしに、楽しそうに話しかけてくる近海くん。
…そうか、今の会話、聞かれてたのか。
「そう。今日の放課後会いたいって。だから会ってくる。ハニーブロッサムでも行こうかな〜なんて、へへ」
口元が緩まる。今日の放課後、どんなことをしよう。ちゃんと謝りたいって言っていたから、リョウちゃんもゆっくりできるところがいいかな。
だったら、お散歩しながらのほうがいいかな。そのあたりも、リョウちゃんが決めてくれるかな。
踊る胸をキュッと抑えつつも、少しだけ垣間見えた希望の光に元気が出た。



