「まぁまぁ珠理。ほんとにめごちゃんの言ってる通りだから。そんなに怒んなよ」
表情をひとつも変えない綺麗な顔に腹を立てていると、それを見兼ねた近海くんが笑いながら説明してくれた。
…というか、珠理はこれ、怒っているのか?表情が無さすぎて気持ちが読み取れない。
「…別に、怒ってないけど…。ごめんね、めご」
「…う、ううん…。別に…」
また、いつかのように髪の流れに沿って、さらりと頭を撫でられた。珠理の指は相変わらず優しくて、男の人の手とは思えない。
…リョウちゃんとは、また、触れ方が違う手。
「…アンタって、頭さわるのは許してくれるわよね。この間もそうだったけど」
「…っ、は?!」
また、朝っぱらから何を言っているのだろうか、このオネェは。でも、事実わたしも触らせてしまっているんだから、何も言えない。
「やめてよ」と、迫力のない声でその大きな手を振り払うと、珠理は少し口角を上げて笑ってくれた。
…笑顔が見れたことに、少しだけ、ホッとする。
「…やっと笑った…」
さっきの珠理、なんだかこわかったから、笑ってくれてよかった。言われたことはなんだか不本意だったけど、何を考えているのか分からない顔をされるよりマシだ。
「…、めご」
〜♫〜♫
何を思ったのか、はたまた何をしようとしたのか、珠理が伸ばしてきた手が視界の片隅に入ってきた瞬間。
わたしのポケットに入っていた、今まで音も立てなかった携帯が、音楽とともに流れ出した。



