「——…しゅり」
目を見開いた珠理。長い睫毛が、2、3回の瞬きとともに揺れた。
「…あ、ごめんわたし…」
珠理って、こんなに早く学校来てるんだっけ。登校一緒になったことなかったから、イマイチよく分かんないけど。てか、この状況はなんだ。
180センチは優に超えているであろうその長身の身体にすっぽりとおさまっているわたし。突然飛び出してきたわたしを、咄嗟に受け止めた珠理の姿勢。
突然のことだったけど、急に恥ずかしくなってきて、べりっと珠理から離れた。
…でも、珠理の鞄を持っていない手持ち無沙汰の左手は、わたしの腰を持ったまま、動かない。
「…ちょっ、珠理…」
「…アンタ、近海と何してたの?」
それどころか、グッと引き寄せられて、そのまま目を細めた顔が近くに寄って来る。
「…ちょっ、何してんの。課題やってただけだから!どいてよ!」
なんなのこのオネェ、朝っぱらから!意味が分からないんだけど!
「課題?なんの…。てか、なんでこんな朝早くから?」
登校したと同時にこの質問攻め。質問は1日3つまでだからな!もう3つ質問したからな、今!覚えてろよ!
「お互い昨日課題やり忘れて、たまたま同じタイミングで学校に来たから一緒に課題してたの!いいでしょ別に!」
いいから離せ!と、腰に当てられた手も剥がして珠理から離れた。せっかく質問に答えたのに、なんのリアクションもない珠理の顔に苛立ちが募る。
珠理は、はじめからちょっとズレてる奴だったけど、こんなに意味のわからない行動をしてきたことってあったっけ。
…ていうか、どうして近海くんとのことをこんなに必死に話さなきゃいけないのか。そこのところもよく分からないし納得いかない。



