…イマイチ、今の自分の状況が掴めていなかった。


ここ最近、地味で瀬名以外の人とは極力関わらないで生きて来た学校生活が、美濃珠理というオネェのせいで変わりつつあるなあというのは感じていたけれども。

まさかこんなことになるとは予想もしていなかったわけで。


「ねぇ、あんたが『メゴ』なんでしょう?!」


自分の名前を、ここまで憎しみを込めて呼ばれたことなんてない。


なぜ、わたしは朝からこの小さい美少女に睨まれているのか。皆目検討がつかない。


くりくりとした大きな目にわたしが映っている。そこから目線を下ろすと、小さくて細い腕が、わたしが逃げないようにと伸びているのが目に入って。


…あぁ、これが今ハヤリの『壁ドン』というやつですか。


そんなことを呑気に考えてしまった。


「ねぇ、ちょっと聞いてるの?アンタが、『メゴ』なんでしょう?!」

「まぁ…はい。そうですけど…」


というか、どっかで見たことあるな、この子。どこで見かけたんだっけ…。えーっと…。


「アンタのせいで、珠理が変わっちゃったんじゃん!アンタのせいで、あたしとの約束、珠理はすっぽかしたんだよ!」


…珠理…?って、美濃珠理のこと…?


「……、あ———————!」


なるほど、分かった。この子はあれだ、この間、珠理と近海くんと一緒に江ノ島に来ていた子だ。

遠目からしか見えなかったから、ぼんやりとしか覚えていなかったんだ。どうりで、見たことのある美少女だと。


「…あぁ、はい。あの時は本当に申し訳ありませんでした…?」


…って、なんでわたしがこの子に対して謝っているのか。まぁ、この間のは珠理も予定をすっぽかしてわたしのところに来てくれていたわけだから、頭は下げるべきなのかな?ううん…。