キュ…と、叩かれた頰に美濃珠理の手が、氷越しに触れる。
「…よく冷やして。女の子なんだから」
冷たい。冷たくて気持ちがいい。さっきまで感じていた痛みなんか、もう感じなくなってしまうくらい。
「しゅ、珠理…」
「なあに?」
「珠理、しゅ、しゅり…っ」
「…」
どうして、あなたの前ではこんなに思いっきり泣けるのかな。男だけど、男じゃないからかな。初めて会った日に、弱いところばかり見せちゃったからかな。
「…ねぇ、めご」
「…っ、う…」
「アンタ、アタシと近海のために怒ってくれたの…?」
美濃珠理…、珠理は、泣きながら何も言えなくなっているわたしに、ずっと優しく話しかけてくれていた。
近海くんたちと会った直後も、わたしとリョウちゃんのことが気になっていたこと。
初めて会った時から、わたしとリョウちゃんの関係を疑っていたこと。
だから、心配になって、近海くんたちとは別れて、1人でわたしがいるところまで戻って来てくれたこと。
そしたら、遠くからわたしとリョウちゃんが言い合いをしていたのが見えたこと。
「…ごめんね。すぐ近くにコンビニがあったから、もしかしたらと思って急いで色々買って来たけど、すぐに駆けつけてやればよかったって今後悔してる」
「…いいよ…っ、そんなの…」
「そんなのじゃない。その場にいたら、きっとアンタの彼氏のこと、アタシが殴ってたわ」
守ってあげられなくてごめんね。
何も悪くないのに、珠理は申し訳なさそうにそう言った。
「…珠理は、どうしてわたしのこと、そんなに心配してくれるの…?」
会って2週間くらいなのに。いくら友達だからって、遊ぶ約束放置してわたしのところに飛んでくるなんて、バカだ。
「…そんなの決まってんでしょ。アンタの友達だからよ」
「……ほんとに、バカじゃん…」
「バカで結構。アタシは、それでもめごが可愛いのよ」
それでも、バカだなって。いくら友達でも飛んでくるなんて、何やってんのって思うけれど、きっとわたしはそれでも嬉しかった。
珠理に、ちゃんと気づいてもらえたことが、どこかでは嬉しいと思ってしまっていたんだ。