「…めご」
「…!」
突然の衝撃に顔をあげると、そこにはまた綺麗な顔。夕日に照らされて、オレンジ色に染まったよく見る顔がそこにはあって。
「…美濃珠理…」
「名前で呼んでって言ったでしょう」
「…」
どうして、こんなところにいるんだろう。さっきは、近海くんと、女の子2人といたのに。
周りを見渡すけれど、美濃珠理の仲間らしき人たちは誰もいなかった。
「…珠理…、何して…」
「何でもいいでしょ。ほら、それよりコレで頰を冷やして。スカート、ちょっと貸して、洗うから」
「…えっ?」
突然渡された、凍ったペットボトル。慌てていたのか、コンビニの袋に入れられたままだ。
それを言われるがままに頰に押し当てていると、美濃珠理はもう一本、凍ってない水が入ったペットボトルを片手に、わたしのスカートを掴んだ。
「ちょっ…?!何すんのよ!」
思わず、引っ張られたスカートを引き返す。いやいやいや、信じらんない、いくらオネェだからって女の子のスカート掴むなんて!
「アンタ、そのまま帰るつもり?こんな甘いタレつけてると、アリが寄ってくるわよ」
「うっ…」
座っていたコンクリートを見渡すと、飛び散ったしらすアイスに確かに数匹のアリが寄ってきていた。
「…アリは、いや…」
「そうでしょう?だったら、大人しくしてなさい。別に変なことなんてしないわよ」
「…」
美濃珠理は、ペットボトルのキャップを開けて、スカートの汚れている部分に優しく水をかけた。
こしこしと擦りながら、しらすアイスを落としていく。
その姿を、わたしは頰に冷たいペットボトルを押し当てたまま、じっと眺めていた。



