しばらく、自分の手の平を見つめていたリョウちゃん。まだ、とてもこわい顔をしていたけれど、そこからわたしを殴ることはなかった。
その代わり、ふいっと背中を向けて、その夕日の中を歩いていく。
「…っ、リョウちゃ、待っ…」
「来んなよ!!!!」
「…っ」
喋ると、口の中が切れていたことが分かった。じんわりと、血の味がひろがる。
「ついて来んな。イライラしてっから」
「…」
「今日はもう終わり。また連絡する。じゃーな」
…いいのに。
こんなの、どうだっていいのに。
こんな、殴られるくらい、どうだっていいんだよ。リョウちゃんになら、何されても構わないんだよ。
…だから、いかないで。終わらせたくない。
「って、思うわたしは、本当にばかだなあ…」
リョウちゃんが好き。どうしようもなく好き。今日会える日が本当に本当に楽しみだった。
時間通りじゃなくても、親と喧嘩しても、ちゃんと走ってわたしのところに来てくれるリョウちゃんが大好きだ。
わたしの行きたいところに言ってくれる、わたしがしたいと思っていることをさせてくれる、そんなリョウちゃんが、わたしは…。
わたしは、言葉では言い表せられないくらい、好きなのに。
どうして、こうなってしまうのかな。
いつから、こうなってしまったのかな。
こんな、血の味なんか、どうってことない。そう思うのに、やっぱりこんなの抜きにして、元のわたしたちに戻りたいって。
…そう思うのは、もう無理なことなのかな…。
「…あー、しらすアイスがべっとり…」
どうしようもなくなったスカートを見つめて、立ち上がる。
…帰ろう。こんなとこいたって、仕方ないし。
「………めご!!」
「…」
どこかでスカートを洗って帰ろうと立ち上がった時、さっきと同じように、名前を呼ばれたのが分かった。
右を向いて、砂浜を見渡して見るけれど、誰もいない。
おかしいな、さっき確かに…
そう思った瞬間、右腕をぐいっと掴まれた。



