「やっぱりこっちの方がいいかなあ〜…って思うんだよね。今までこんなに伸ばしたことなかったからさ」

「そうだねぇ〜!めごの髪だったら 緩く巻いても似合うと思うよ、猫っ毛だし」





—— 季節は回って、7月下旬。



だんだんと暑さも増してきて、蝉たちの鳴き声も慌ただしくなってきた今日この頃。

胸まで伸びた髪を耳にかけながら、さっき本屋で購入した雑誌を広げる。


同じテーブルの上には、冷たいレモネードが2つ。
それを、瀬名と2人で向かい合って囲む。



…そして。



「ちょっと〜〜!あんたたち何楽しそうな話をしてんのよ!!受験生の隣で、いい御身分ね!!」


隣からは、強いソプラノが響く。
その揺れるポニーテールは、暑い夏も吹き飛ばしてくれるくらい、爽やかだ。


「うるせーな。受験生には夏休みなんてもんはねぇーんだよ!いいから早くこの問題解け!そのくらいも解けねーで俺と同じ大学行こうだなんてふざけんなよ」


そして、それを厳しく指導する、相変わらずの近海くん。

2人は、わたしたちが勉強とは関係のない話をしていたら気が散るからと、後ろのテーブルでたくさんの参考書を広げている。


「別に!近海と一緒に行きたいとか思ってないし!あたしが自分で決めたんだし!」

「はいはい、分かった分かった。でも落ちたら意味ねーだろうが。だから早く解け」

「うわーんっ、鬼!!!」

「お前がポンコツなだけだ」


茶々ちゃんは、ただ今絶賛受験生。

わたしたちより一個下だから仕方ないことなんだけれど、それでも、近海くんのスパルタ授業を受けながら、夏休みに入った今でも頑張って勉強に励んでいる。


わたしと瀬名は、同じ大学に入学した。約1年半前に進路調査票に書いていた国立大学だ。
その大学は鎌倉ではなく、横浜市にあるから、わたしは今、一人暮らし。瀬名は、まだ実家から通っているけれど、お金が貯まったら家を出るって行っていた。

近海くんは、東京の大学。有名私立に合格して入学したのだから、本当にすごいと思う。そして、それに後を追って挑戦しようとする茶々ちゃんも、すごい。