「…ん、いい子」
「…」
肩に回されていた手は、そのままやさしく頭を撫でる。
それを合図に、少し離れた場所にキャリーバッグを押しやった珠理は、そのままコツンと、おでこをわたしの頭に預けてくる。
…近い。
珠理のにおいが、する。
「大丈夫よ。アタシはめごしか見えてないからね。どんな色気全開の金髪美女に言い寄られたって、この気持ちが変わることなんてないわ」
「……」
「わかった?」
「…うん」
少しだけ強引な珠理の言葉にうなずくと、満足げに笑った。
その笑顔を、真正面から受け止めて、思う。
…明後日には、この笑顔を間近で見ることはできなくなってしまう。
その事実が信じられなくて、まるで珠理が遠くに行くなんて嘘なんじゃないかと錯覚してしまうほど。
今感じている体温は、本当にしばらく、触れられなくなってしまうのだろうか。感じられなくなったしまうのだろうか。
…今は、こんなにも近くにいるのに。手を伸ばせば、触れられるのに。
…本当に、明後日には、バイバイなのだろうか。
「…、めご?」
「…」
…そう思うと、たまらなくなった。
やっぱり、さみしいものはさみしい。いくら大丈夫だと言い聞かせたって、何度頑張れると思ったって、今感じている珠理の存在が遠くに行ってしまうこと。
それは、変わらないこと。
「……本当に、心は離れない?」
いつのまにか、目の前の人の身体に手を回して、抱きしめていたことに気づく。
そして、なんて幼稚な質問をしているんだろうと、自覚する。
…あぁ、バカだなあ、わたしは。
もう、珠理の前で泣くなんてこと、ないと思っていたのに。
「…遠くに行っても、心は変わらない?」
「ええ。変わらないわよ」
「わたしのこと、ずっと好きでいてくれる?会いたいって…、思って、くれる?」
「もちろんよ。きっと、ずっとずっと思ってる。1年後も、絶対思ってる」
「……っ」
迷いのない、珠理のまっすぐな声。
その言葉は、その声は、わたしの御守りだよ。
珠理。



