でも、このくらいでちょうどいいじゃないか。


「まぁいいわ。これからもめごとアタシは、仲良くしていくんだから、ね」


「はい、めご」と、美濃珠理は、フォークに刺さったタルトの一欠片ぶんを差し出した。

美味しそうだったそれに、思わず口を開けて、そのまま貰ってしまう。


「ふふ、美味しい?」


…美味しい。けど。


「…なんで、美濃くんがわたしと仲良くなろうと思ったのか分かんない…」



…人種が違いすぎる。色々と。

どっちかっていうと、地味なわたし。恋話なんてそこらへんの女子並みに好きだし、オシャレも好きだし、可愛いものも美味しいものも好きだけど。

そういうの、封印してきたのに。


——どうして、この人はわたしと仲良くしたいと思っているのだろうか。


…少し、聞きたかったけど、ルール違反になっちゃうから、やめた。



「ねぇ、めご。その『美濃くん』って、やめない?」

「…え。やっぱり、クン付けはイヤ?」

「ううん、そうじゃなくて。これから仲良くしていくんだから」

「ええ…。じゃあ、ミノくん?」

「それじゃみんなと同じじゃない。下の名前を呼び捨てで呼んで欲しいわ」

「呼び捨て?!」


…みんな、「ミノくん」って呼ぶのに。それじゃあ、また浮いてしまうじゃないか。


「…ほら。呼んでみて」

「…………、しゅ、しゅり…」

「ふふ、何照れてんの、可愛い♡」


なんだか、色々と突っ込みたいことだらけなんだけど。


…珠理が、嬉しそうにもう一度タルトを差し出してくるもんだから、名前くらいいっか、と、思ってしまった。