笑って、元気にケーキをお客さんに手渡す珠理を見ていた。
オジサンも、わたしと同じ方を見ている。目が合うことは、一度もなかった。
だから、考えていることも、どうしてわたしの目の前に座ったのかも、どうして今なのかも、なんとなく、分かるよ。
「…めごちゃんは、珠理が遠くに行ってしまったら、どうする?」
「………」
…わたしの顔を見ないように、聞こえるか聞こえないかの大きさで、問われた。
どこか寂しそうに珠理のことを見るオジサンが、何を考えているのかわたしにはまだ分からない。
でも、わたしよりもサユリさんと珠理のことを見てきたのは確かだから、色々と思うところがあるのかもしれない。
「…どうするって、どーいう…」
…わたしは、この質問に、なんて答えればいいの?
「…今日は、ものすごく過酷な話をしてしまったと思ってる。サユリから今日の件を聞いたのは数日前で、今回話すかどうかも迷ってたんだ。本当は、やめた方がいいんじゃないかとさえ思ってた。しゅーくんとめごちゃんを、ひどく困らせるのは、目に見えていたからね」
「…」
「…でも、珠理もまだ未成年で、充分に親と過ごしてきたわけでもない。ましてや、父親と母親のあってはならない形だって見せられてきた。サユリには、まぁ…すべてを言い訳にしてはいけないのかもしれないけど、病気のせいで、良いように扱われながら、生きてきた」
…分かってる。すべてではないけれど、ゃんと分かってる。
「…それが、ようやく母親として基本的なラインまで辿り着いた。毎年毎年、息子の顔を見られるのは一度だけ。引き裂かれる思いをしながら、自分を責めてアメリカに帰ってっていうのを繰り返して…。自業自得なんだろうけどさ、きっともう、サユリと珠理には時間がないんじゃないかって思ったんだ」
「…」
「サユリは、アメリカに仕事場がある。やっと基本的な生活ができたとは言え、まだまだ完全ではないから。故郷にいる俺らの父さんと母さんの支えも必要だ。なにより、珠理ひとりに、自分のことを任せっきりにしたくないと思ってる」
淡々と、オジサンはサユリさんへの思いを綴っていった。



