…珠理が、サユリさんとアメリカに行く?
「…もう、わたし自身が、だいぶ落ち着いてきたの。しゅーくんと離れて、5年近く治療してきて…身体の方も、精神的な方も、だいぶ治ってきて…。普通に楽しく生活も出来ているし、仕事も少しずつ復帰できているの。だから…」
「………」
「……アタシと、もう一度一緒に暮らしたいって、こと…?」
………珠理。
ずっと下を向いたまま、ぽつりぽつりと言葉を紡いでいくサユリさん。でも、その声は小さく震えていた。
その横で、ずっと険しい顔をしているオジサンは、きっと、もう知っていたこと。
…わたしは、何も言えないまま、何も考えられないまま、ずっと、思考が停止したままだ。
まるで、目や耳に膜が張り付いてしまったように、瞬きもできなければ、音もあまり聞こえない。
小さな空間に、閉じ込められたような感覚がする。
「…ずっと、一生とは言わない…。高校を卒業したら、しゅーくんの好きなように生きていい。日本に帰ってきてもいいから…。もう一度だけ、ちゃんとしゅーくんと過ごす時間が欲しい…」
「…」
…こんな時、わたしはなんて言えば良いんだろう。何も、言葉が出てこない。
感情もない。ただ本当に、ぼーっとするだけ。
珠理と離れちゃうとか、じゃあどのくらい離れるのかとか、そんなことも、まったく頭の中には浮かんでこなくって。
ただただ、今のこの状況を、必死に拾い集めているだけ。
そんな状況を少しだけ破るように触れたのは、珠理の手のひら。
膝の上でずっと固まっていたわたしの手を取って、握りしめてくれた。



