はじめて、自分から珠理に触れた。恋人しか触れられない場所に触れた。
おでこは、珠理のにおいが一番強い場所だと思った。とてもいい匂いだった。



「…めごが、アタシにキスした…? おでこだけど」

「恥ずかしいからやめて。あとおでこだけどは余計!それ以上は無理だから!」

「…っ」



暗くてよく分からないけど、珠理は大きな手のひらを口元に押し当てて、恥ずかしそうに目を泳がせていた。

もしかしたら、少しだけ、赤くなってたりするのかな。


でも、わたしも何かしてあげたくなったんだ。


「めごってさ、絶対いつかアタシのこと、殺すわよね…」

「は?」

「めごにときめき過ぎて心臓痛い…。くるしい…」

「なに言ってんのほんと…」



ザザンと、波の音が大きくなった。真っ暗な世界に、上の道路を通る車のライトの光しか当たらない。

そんな中で、2人で寄り添う。

寒いのに、暗いのに、そんなこと微塵も感じないのは何でだろう。



「…帰ろっか」

「うん」

「家の前まで送るわ」


ずっと、そこに座っていたかった。
ずっと2人だけの世界だと錯覚できた。


ねぇ、やっと、わたしたちのカタチが見えつつあるんだから。



珠理、ずっと隣にいてね。

…なんて、今は恥ずかしいから言わないけどさ。




願わくば、きみとこれからも並んで歩きたいんだって。


そう、思っていたんだ。