くちびるの間をなぞるように触れるそれは、さっきと同じ音を立てて離れると、そのままもう一度触れた。
やさしい動きに、身体の芯がじんと痺れてくる。
「めごのくちびる、あったかい」
そう呟かれては、今度は親指で形をなぞられる。
…そうかなあ。わたしは、珠理の体温の方が、あったかい気がするよ。
でも、ほんとうは、どっちの熱なのかも分からないくらい。
熱くて。
「しつこくてごめん。でも、めごはちゃんと彼女なんだって、自覚するたびにうれしすぎて」
「…うん、大丈夫」
少しだけくるしそうな顔をする珠理を見て、心臓がきゅっと鳴った。
冷たい指先も、赤くなった鼻も、外に出てくる白い息も、なんだかいとおしくて。
…わたしも、こんなにもすきだったのかと、また自覚をする。1日、1時間、1秒と、少しずつ想いが重なっていくのがわかる。
珠理の頰を包んだ。冷たかった。触れているわたしの指も、冷たかった。
少しだけ戸惑っている顔が、少しかわいかった。
「…珠理、わたしの気持ちも、ちゃんと分かってる?」
「え…?」
じっとこちらを見る目に、月の光が反射して、わたしの顔が映る。綺麗な目。何度見られても緊張する。ビー玉みたいだ。
「ちゃんと、分かってる?」
「うん。分かってるわよ。ちゃんと伝わってる」
「…ん」
わたしの手に押されて、頰が歪んでいて、おもしろい顔。でも、こうやって触れられるのも、わたしだけ。わたしだから、触れられる。
斜めに長くなっていく、アシンメトリーの前髪を横に流した。サラサラでふわふわの髪。それを退けると、綺麗に整った眉と白いおでこが見えた。
「…めご…?」
不思議そうにわたしを見る顔を、少しだけ近づけて、座ったまま背筋だけを伸ばした。
そしてそのまま、ほんのり温かい珠理のおでこにくちびるを押し当てる。
それに触れる時、その身体はピクリと動いたけれど、離れて珠理の方を見ると、ものすごく驚いた顔をしていた。