「…クリスマスって、言っても…。うち、ケーキ屋だから…。どこか遠くに出かけるとか、そーいうのは、ちょっとて難しくて…」
「…うん、分かってるよ」
ハニーブロッサムが、クリスマスケーキを毎年出しているのは、知っている。珠理が多少なりとも、そのお手伝いをしなきゃいけないのも、ちゃんと分かっているよ。
…それでも、珠理の表情は明るくならなかったから、わたしは心配になって珠理の人差し指をつかんだ。
まるで、“ あのとき” みたい。珠理がわたしに、“ ヒミツ ” を教えてくれた日と、同じ感じがする。
「…しゅり、」
「その日、」
—…珠理の声が、かぶる。
「—— その日、サユリが来るの」
「——…」
………そうだった。
そういえば、近海くんが言っていたような気がする。
「また、留守電が入っていたの。今年も、クリスマスにハニーブロッサムに顔を出すって」
「…」
サユリさん…、珠理のお母さんは、毎年1回、珠理のところにやってくる。珠理に会いにくる。それは、この前教えてもらった。
それが、今年もクリスマス。
そして珠理は、わたしと一緒にいたいって言っている。それがどういうことなのか、分からないわけじゃないよ。
「……わたしも、サユリさんに、会うってこと…?」
「めごが、嫌じゃなければ」
「…」
珠理の指が、怯えるようにピクリと動いた。
なるほど…。わたしが、珠理のお母さんと会う…。
「嫌だったら、べつにいいの。ただ、めごのこと紹介したいって、アタシが勝手に思ってるだけだから…」
“ 突然のことだから、無理しないで” と、付け足しながら、珠理はようやく顔を上げた。
小さく、息をついている。少し緊張から、解き放たれたような顔。



