「珠理は、ずるいよ」
『あら、なんで?』
「…なんでもない」
『ええ〜っ!?なんなのよ〜』
にこにこと笑って、可愛い可愛いとわたしを包み込んでくるかと思えば、そうやって甘い声なんか出してさ。男の人だと思ったら、また普段の珠理に戻る。
2人の珠理がいるみたい。でも、その2つの珠理、どちらも彼には変わりない。変わりないし、わたしはどちらの珠理のことも好き。
きっと、無意識に出てるんだろうな。それはなんとなく分かってきた。
それでもやっぱり、ドキドキが全然追いつかなくて、たまに溺れそうになってしまうよ。
「なんでもない。じゃあ、明日の朝、鎌倉駅で待ってるね」
『…ん。じゃあまた明日、たくさんお話しましょうね』
本当はずっと話してたい。わたしは本当に甘えた人間だから、こうやってわたしを大切にしてくれる人と話しているのは心地がいい。
だけど、それに甘えてばっかりだったら、ダメになっちゃいそうで、怖くなるから。
「うん、おやすみなさい」
『おやすみ、めご。また明日』
名残惜しいけど、そのまま通話終了のボタンを押した。
通話時間は、8分36秒。
いつも学校で話している時間の何分の1なんだろう。
でも、電話で話すって言うのも、なんだか特別感があってよかったなあ。
糸電話じゃないけれど、まるで2人が何かで繋がれているような感覚になった。
「…」
何となく、通話履歴の画面を開いた。そこには、初めて残った “ 美濃珠理 ” の文字。
その文字が、これからその履歴にたくさん残っていけばいいと思った。
…久しぶりに、こんなに自分が “ 女の子 ” になるのが、なんだか恥ずかしいと思っちゃったくらい。



