ザク、と、地面を踏む音が聞こえて、その瞬間に、意識している自分が急に恥ずかしくなった。

サッと視線を下に向けてると、向かい合わせに立った珠理は首を傾げて、背をかがめて、私の顔をじっと見る。

何だろうとドキドキしていると、大きな手のひらを頭の上にのせられて、そのままやさしく撫でられた。



「…ねぇ、めご」

「ん…?」



低い声が、夜空に響く。



「アタシ、一生忘れない。今日のこと」



その声が、ジンと心に染み渡る。


その染み渡っていく温かいものに、わたしはなぜか、また涙が出そうになった。


「うん…っ」


わたしもだよ、珠理。今日のこと、絶対に忘れない。




「…そうだ。めごに、言っておきたいことが1つだけあったんだ」

「え…?」


珠理はそう言うと、もう一度くしゃっとわたしの髪の毛をやさしく撫でた。

親指で、少しだけ前髪を上げられる。

さらされたおでこに、冷たい風が当たったかと思うと、そのまま熱いくちびるが降ってきた。


「…っ」


少しの間当てられたそれは、手のひらとともに離れて。




「——俺の彼女になって、めご。」




代わりに、とびきり甘い声で、その言葉が囁かれた。


差し出された左手。こんなに暗い中でも、ブルートパーズはキラリと光っている。


「…っ」


わたしも、珠理からもらった桜貝のブレスレットが付いた左手を差し出して、その手にきゅっと重ねた。



「…うん。珠理の、彼女になる」




まるで、これからの2人の未来を誓うように。

これからも、ずっと、一緒にいられるように。


…そんな願いが、叶いますようにって。

心の中で強く強く想いながら、わたしだけに向けられた、とびきりの笑顔を、


ずっと、目に焼き付けていた。