…初めて知った。サユリさんが、珠理のオトーサンに、暴力を振るわれていたこと。そしてそれを、珠理は見せられていたこと。
—— “…ほんとに、何もされていない?”
…珠理の誕生日の日、リョウちゃんと会ってきたわたしの頰に、震えながら指を這わせていた。不安そうな顔を向けていた。
…その時の珠理を、思い出す。
「…そこから、近海は仲良くしてくれたの。たくさん話しかけてくれたし。特に理由も聞かれなかったけれど、それでも、近海の家族はみんな優しかった」
「……そ、なんだ…」
…だから、近海くんの家で、毎年誕生日パーティーもしているのかな。
起き上がって、珠理の方を見る。珠理は、「ん?」と、目を見開いて笑っていた。
そして、また、すぐに視線を落とす。
…どうやら、話は終わりではないみたい。
「…でも、高学年くらいになった頃から、オトーサンは、うちにはパッタリと来なくなったの。きっと、あの時にはもうあの2人は別れてたのね。でも、そこからが大変だった」
「………珠理、話せるの…?無理してない…?」
聞いているうちに、辛くなってきて。
話している珠理は大丈夫なのかと、心配になってしまう。
でも、珠理は笑って首を横に振るから、わたしは何も言わずに次の言葉を待った。
「…アタシね、どうやらそのオトーサンに顔がそっくりなんだって。小さい頃から、サユリが言ってた。カッコいいお父さんだったのよって。あなたはお父さんに似て美しいわって」
「……うん…」
「でも、オトーサンがうちに来なくなってからは、サユリは変わった」
「…」
…このあたりから、だろうか。
珠理の手が、少しだけ震えだした。
だからわたしは、その手を必死に掴んで聞いていた。
「オトーサンに似たアタシが、ものすごく憎くなっちゃったみたいで、“その顔を向けないでほしい” って、“なんであんたはオトーサンにそっくりなの” って、毎日言ってた」
「……」
「いつも、意味も分からない怒りをぶつけられてた…。“男なんて見たくないんだ” って、“なんであんたは男なんだ” って、何度も何度も、そう言われたの」
ギュッと、珠理の手が、わたしのカーディガンをつかんだ。
ハッとして珠理の方を見るけど、表情はいつも通りだった。
…身体にだけ、強く力が入っている。



