「……めご」
ぎゅうっとしまる身体。右耳からは、珠理の声が、響く。
「……珠理」
—— あぁ、やっぱり、悔しいな。
珠理にこうされることが、もう、安心する魔法みたいになってしまった。
珠理の少し高い体温を感じると、今までの1人で抱えていた不安が、嘘のようになくなっていく。
「…何してるの。寒かったでしょ」
珠理は、玄関に置いてあったブランケットをわたしに掛けてくれた。
…ほらね、こーいうところ。本当にやさしい。
「寒くないよ。走ってきちゃったから、ほんとは暑いくらい」
「走ってきたの?あの道を?1人で?危ないじゃない」
「はは、危なくないよ、まだ6時だもん」
「何言ってるの。6時でも周りは真っ暗なのよ」
ピン、と、おでこを指で弾かれた。少しだけ頰を膨らませる珠理は、わたしに怒っている。でもそれは、わたしを心配しての怒り。
「とりあえず、入りなさいよ。こんなとこじゃ寒いから。風邪引くわ」
「えっ、いいよ。わたし、本当にちょっとお話したら帰ろうと思って……」
—— わたしの頰を温める珠理の指先に触れていると、玄関の奥から大きな影がもうひとつ見えた。
少しずつ動いてくる。何だろう、オジサンかな?と思ってじっと眺めていると、突然に、ひょいと顔を出して。
「あれ?めごちん。なんでこんなところに」
「近海くん!?!?」
先客がいたことを、気づかされてしまった。
「あっ、ごめん。近海くん来てたんだね。何も知らなくて、連絡もよこさなくて、わたし…っ」
と、いうか。この、抱きしめられて頰を包まれている状況が、急に恥ずかしくなってきて。
慌てて、珠理の身体を離す。
その姿を見られていたのか、近海くんは少しだけニヤッと笑って、わたしたちの方を見ていた。



