左手首で揺れる、桜貝に目を落とす。

やっぱり、珠理にこうされたいって思う子たちはたくさんいるんだ。今まで、相手がわたしだったから黙ってくれてたんだろうけど。

でも、それももう、潮時ってことか。


それでも、珠理が今までわたしにしてくれたこととか、言ってくれた言葉は、大切にしたいと思った。

…この左手首で光る桜貝のブレスレットも、この人たちには言えなくても、ずっと大事にしたい。



「ちょっと、昼間っからうるっさいんだけど。何やってんのよメス猫どもが」

「……!」


キャンキャンと騒ぐ女の子たちから目を逸らしたくて、きゅっと瞼をきつく閉じたら、隣からソプラノの高い声が被さってきた。

そっと目を開けると、目の前には影ができていて、そこに長いツインテールが風によって揺らされている。


「こんなとこで、そんな大人数で1人の女の子を相手にしてるなんて、どこのベタな少女漫画よ!ダサすぎるにもほどがあるわ」


その声は、時々、聞いている声。見覚えのあるシルエットに、思わずわたしの声も漏れる。


「…茶々ちゃん…」


わたしと同い年…だから、この女の子たちは茶々ちゃんにとって先輩なはずなのに、それにも屈しないで仁王立ちしている茶々ちゃん。

…助けて、くれたのかな。普段は、わたしにも牙を向いているのに。


「はあ〜?あんたはこの間珠理にフラれたって泣いてたじゃない。終わった元カノが今さらシャシャリ出て来ないでよ」

「終わったからなんだって言うのよ。珠理に真正面から告白もできないで、陰で応援するフリして見つめることしか出来ないアンタたちの方が芽瑚に文句言う資格はないって言ってんのよ」

「はぁ〜〜!?」


さらにヒートアップしていく女の子たち。それにビクともしない茶々ちゃんは、「行くわよ」と小さく呟いて、わたしの手を取って、その人たちの前から去っていった。