珠理は、しばらくわたしの目をじっと見つめていた。

そして、そのまま長い人差し指を、わたしの方に伸ばしてくる。


「…!」


それに反射して、思わず目を瞑ってしまったら、そのままその指は、わたしのほっぺたにプツとささった。

そして、そのまま数回、ムニムニと繰り返しくぼみをつくられる。



「…な…なに…っ」

「んー? やっぱり、可愛くて」

「…!」


そして、再び、甘い言葉の攻撃が始まる。





「…めご。次は俺のこと好きになってね」

「…!」




何度も、何度も、容赦なく伝えられる珠理の気持ち。

その度になにかが積もっていく、そんな気がする。


「今日は本当にありがとう。楽しかったね」


「う、ん…」


小さくうなずくと、珠理は緊張から解き放たれたホッとしたような顔で、笑った。

そして、ゆっくりと腕を引き寄せられる。

なに、と言おうとした時にはもう、ベレー帽越しに珠理の唇がこめかみあたりに押し付けられていた。


…2回めだ。

それでも、わたしは初めての時と同じように、顔に上がってきた熱を必死で隠すことしかできなかった。

こんな顔、絶対に見られたくない。そう思っているわたしを見て、珠理はまた笑う。



わたしたちを、冷たいしっとりとした秋風が包んでいく。

もう、すっかり冬になっていくのを感じながら、わたしは笑う珠理を見ていた。



…左手では、そんなわたしたちを見守るように、桜貝がやさしく揺れていた。