「勝手に誤解して、勝手に傷ついて、勝手に他の男の前で泣いてんなよ」

「…っ」




「…俺は、めごだけは絶対に泣かさないって、決めてんだから」




ギュッ、と、わたしを抱きしめている腕に、また力が入った。

珠理の声は、すべて、この夜の真っ黒い世界に吸い込まれるように消えていく。

でも、わたしの中の脳天を突き破るような心臓の激しさと、珠理の右胸から聴こえてくる鼓動の速さだけは、そのまま残って、確かに生きていた。


…なんだろう、この気持ちは。


やっぱり、よくわからない。

近海くんは、わたしたち2人が解決しないと意味がないって言ってたけれど、そんな日がいつか来るのだろうか。




「…珠理、早く、家の中に入らないと…っ。熱、あがっちゃう…」


息をするのも、やっとな感じがする。わたしが苦しくなって、少しだけ身体を話すと、珠理はそれと同時に、背中を丸めて顔を近づけてくる。

それにまたピクリと肩が跳ねて、思わずギュッと目を瞑ってしまう。


「アンタが勝手に飛び出して行ったからでしょうが」

「そ、だけど…!でも…!」


その低い声、やめてほしい。珠理の “おとこのひと” の部分は慣れていないから、まるで違う人に見えてしまう。



「…じゃ、俺の話ちゃんと聞いて、誤解を解いてから帰って。家の中、入るわよ」

「ええっ…」



また、少しだけ強引に、腰を引かれる。
そのまま、珠理とわたしは、また珠理の家に戻っていった。


もう、星たちが輝きを増す、冬に差し掛かる空が、わたしたちを包んでいた。