“泣いたの?” なんて聞かれて、素直にうなづくなんて、結構恥ずかしいこと。それを、今生まれて初めて身にしみて感じている。

でも、なぜか珠理は少し怒っているから、そこで誤魔化しが効かないことは分かっていた。


うん、と、小さくうなずくと、珠理はピクリと眉毛を動かした。

…珠理のこんな顔、初めて見るかもしれない。



「…泣くなって言ったのに…」

「え…」


低い声で、聞こえるか聞こえないかくらいで発せられた言葉。あまり聞き取れなくて、思わず聞き返しそうになった。

…でも、それはもう遅くて。



…また、ギュッと、身体がしまった。

それは、さっきよりも熱く感じた。





「…俺以外の前では泣くなって言ったのに。もう、忘れたのかよ」

「……!」




——今までにないくらい、心臓が跳ねたと思う。

こんなに、人の言葉ひとつに、声に、心が動いたことがなかった。

ギュッと心臓が掴まれて、動けなくて、身体に熱が走っていく。

そんなの、今まで感じたことなんてなかった。



「…しゅ、り…?」



いつもの、珠理じゃないように思える。

また、寝ぼけてる…?それとも、熱で頭がぼうっとしてる…?

早く家に入れなきゃと思うのに、身体がガッチリと掴まれて、身動きが取れない。



「…近海の前で、泣いたんだろ。めごが泣いていいのは、俺の前だけだって言ったのに」

「…っ」

「他の男の前で、そんな可愛い顔して泣いてんじゃねーよ」



いくつもの、聞きなれない言葉に、頭がおかしくなりそうだった。

まっすぐ目を見つめられて、切ない顔を向けられて、低い声で囁かれて。



…腰が、抜け落ちてしまいそう。