「…だって、めごとデートできる、せっかくの機会だったのに」
「…!」
“デート” なんて言葉に、反応してしまう自分が恥ずかしい。こんなこと、珠理なら普段から言っているようなもんなのに、改めて言われると、なんだかムズムズする。
「デートって…。パンケーキ食べるだけでしょ。何女の子みたいなこと言ってんの」
だからって男の子かって言われても怪しいんだけどね。でも一応、生物学的に言うと、男だから!
「…それに、やっぱ、好きな人いるくせに、そうやってわたしのこと誘うのどうかと思うよ…。友達同士の遊びならいいけどさ…」
オジサンが準備してくれたハニーミルクを渡す。わたしも一口飲んだ。甘い香りが鼻から抜けて、やさしいハチミツの味が広がった。
…とっても、おいしい。
「え…?」
珠理も、同じように飲んでいたけれど、ひとくちゴックンと飲み込んだ後に、少し間を置いて、驚いたように目を開ける。
「めご、何を言ってるの?」
ついでに、眉毛も少し真ん中に寄っている。なんだその顔、それで誤魔化そうとしている気なのか。
「…さっき。夢見てたのか知らないけど、女の子の名前呼んでたよ。あんたねぇ、わたしだったから良かったけど、他の女の子だったら、きっと泣いてるよ」
「…」
ははは、と、笑いが出た。他の女の子だったらっていうか、茶々ちゃんだったら、泣きながら怒るだろうな。きっと。
…それとも、あの子もこんなふうに、心に引っかかりを持ちながら付き合ってきていたのだろうか。
——…ん? こんなふうに ?
「…めご、待って。アタシ何を言ったの?寝ぼけてた?」
…慌てている。そんなに聞かれたらマズイことだったのかな。
そういえば、珠理からは昔からの忘れられない人の話、聞いたことなかったな。わたしの恋愛にはわりと関わろうとしてくるのに、コイツのことに、わたしは関わったことが一度もない。



