離れないで、小さくなっている珠理が心配だったから、しばらく離れずに背中をさすってあげていたけれど、サユリと呼ばれたことが引っかかって、それをやめた。
…サユリなんて、女の子の名前だ。昔の好きだった人か、元カノか、その “わすれられない人” なのかは知らないけど、その人の代わりにさせられていることには、なんだか引っかかるものがある。
その人の代わりでこんなことをさせられているなら、嫌だ。
「……っ」
我に返った。珠理の大きな身体を軽く押しながら、離れる。
「あ…。ごめんなさい…」
「…」
わたしが嫌がっていると思ったのか、珠理は申し訳なさそうに、また眉毛を下げた。
「いーよ。それよりもホラ、汗かいてるからちゃんと拭きなさいよ。汗冷えたらまた風邪悪化するよ!?」
…別に、珠理にわすれられない人がいるのは知っていたし、そんな人がいたっておかしいとは思わないし。
ただ、それをわたしにぶつけられるのが嫌なだけ。
変な空気になるのも不自然だから、できるだけ平気な顔をして、タオルで汗を拭ってやった。
「めご、タオル汚れちゃうわよ…」
「いーの、別にこれくらい。洗えばいいんだから。それよりも、熱は今どのくらいあるの?測ってないなら、測りな」
「分かったわ」
ベッドのそばに置いてあった体温計を渡す。珠理はそれを受け取って、もたもたと脇に挟んでいた。
すぐに、ピピピッと音がなって、2人でその数字を覗き込む。
——37.7℃
うーん、微妙。まだ下がりきっていない。動けるけど身体がだるい、一番きつい時だ。
「…明日は、やめておいた方がいいね。パンケーキはまた今度にしよ」
かちゃりと、体温計をしまいながら伝えると、珠理は「えっ」と声をあげた。その声に誘われるように顔をあげると、この世の終わりかのような表情をしている。
「…いや、そんなに落ち込むこと?」
明日行けなくたって、別に来週だって空いてるし、予定がなくなるわけでもないのに。



