「ごめんね、来るのこんな時間になっちゃって。何か欲しいものあるかなと思って、メッセージ送ったんだ、けど……」
「————っ」
とりあえず汗を拭いてあげようと、かばんから使っていないタオルを取り出したら、急に身体がキュッと締まった。
…オジサン。弱ってるからって、何もしないわけではないみたい。
また…、抱きしめられてる。
「…ちょっと、あんたねぇ…」
「…ごめんなさい、でも、ちょっと…」
「…?」
キュウ、と、腕に力が入っている。いい匂いがするシャンプーの香りに、少しだけ汗の匂いが混じって。
それが、わたしの鼻を刺激する。そして、思い出させるんだ。あの日のことを。
…珠理に、抱きしめてもらった日のことを。
でも、その時とは違う。どこかが違う。あの時よりも、少しだけ頼りなくて、子どもみたいに震えている。
“結構背負い込んでしまうとこあるから”
近海くんの声が、よみがえってきた。あれは、こういうことなのか。それとも、ただただ甘えているだけなのか。
よく分からないけれど、とりあえずふざけている様子ではなかったから、しばらくそのまま、動かないであげた。
「…珠理」
「…」
「しゅーり」
「…ん」
…本当に、どうしたのかな。なんか、悪い夢でも見たとか? さっき呟いてた、「サユリ」ってのが、関係しているのかな。
ていうか、サユリって、だれ?
…もしかして、茶々ちゃんが言ってた…人、とか…。



