その瞬間に、キュッと、その手を握られる。
思わず声を上げそうになったけれど、次の珠理の声で、そんな気持ちは一気に吸い取られてしまった。
「———、サユリ」
ぼーっと、わたしの方を見つめながら、わたしの手を取りながら、発された声。
でも、それは、わたしの名前ではなかった。
——「サユリ」
また、呼んだ。2回目だ。わたしの顔を見ているというのに、どうしてこんなに、呼び間違えるかな。
ていうか、サユリって、誰?
「…サユリじゃない、めごだよ」
「…………めご…?」
夢を見ていたのか、一点を見つめていた目は、わたしが自分の名前を呼んだ瞬間に、カッと開いた。
そして、毛布にくるまっていたその巨体は、思い出したように飛び起きる。
「めご……!?なんでここに…っ!?」
そして、あわてて頭を押さえていた。頭痛がしたんだろうな。あんなに、突然飛び起きるから。ばかだなあ。
「お見舞い。アンタが、パンケーキ目の前にして倒れたって言うから」
「あ……」
カタン、と、そばにあった小さな机に、運んできたハニーミルクを置いた。それを見た珠理は、申し訳なさそうに眉毛を下げる。
「ごめんなさい…。アタシ、熱出しちゃって…。わざわざお見舞い来てくれたのね」
「いーよ、別に。元々をたどったら、あの時屋上でアンタのカーディガン貸してもらったのが原因かも知らないし」
しゅんとしている珠理。声が少し鼻声だ。顔も赤いし、前髪は少し汗で額にくっついている。
いつもは、綺麗で完璧で、制服もしっかりとオシャレに着ている珠理だから、こんなに弱っていてスウェットを着た姿を見ると、珠理じゃないように思える。



