——コンコン
念のため、ドアを叩いてみる。でも、何も返ってこなかった。
…きっと、寝てるんだな。起こすのは申し訳ないけど、オジサンに言われたし…。
それに、明日のこと、聞かなきゃいけないし。
「——珠理、入るよ」
キィ、と、音を立てて動くそのドアを腕で開けながら、部屋に入った。
部屋は明かりがついていたから、陽が落ちた今でも明るかった。
わりとゆったりとした空間に、セミダブルくらいのベッドが置かれてあって、そこに大きな身体が横たわっている。
…珠理だ。
「…寝てる」
静かに上下する身体。毛布にくるまっていて、その端から、長い睫毛が生えた綺麗な顔が少しだけ見えていた。
そばに寄って、様子をうかがう。
「…しゅり」
名前を呼んでみたけど、くうっと寝入っている珠理は、ピクとも動かなくて。
思わず、手を伸ばした。
「…しゅり」
サラリとした、アシンメトリーの前髪に触れると、その絹のように細い茶色の髪は、指の間を流れていく。
わたしの指がくすぐったかったのか、その綺麗な顔は少しだけ歪んで、キュッときつく目を瞑った。
そのあと、「んん…」と、聞き慣れた声が部屋の中に響く。
今がチャンスだ、と思った。
「珠理」ともう1回呼んで、髪を少しだけ撫でる。すると、そのきつく閉じられていた目は、少しずつ、開いた。



