「あっ、あの、こんばんは」
あわててペコリと頭を下げる。その瞬間、この間のことを思い出して、ケーキを食べるだけ食べて、そのまま珠理と飛び出して行ったことをお詫びした。
だけど、それさえもオジサンは笑い飛ばしてくれて、目の前で手のひらをブンブンと振った。
「あはは、そんなのはいいよ〜。どうせ残って、食べなきゃいけないやつだったからね。むしろありがとうだよ。それで、今日はだうしたの?」
「あ…、えっと、珠理…珠理くんが、熱を出したって友達に聞いて…。だから、プリント類とかを…」
「あ〜〜!」
そういうことね、とオジサンはポンと手を叩いた。
そして、「ここは寒いから」と、その可愛らしいドアを大きく開けて、中に入れてくれた。
「しゅーくんはね、上の部屋で死んだように寝てるよ。今から夕飯作ろうと思って、台所に立ってたんだけど」
…初めて、お店の方ではなく、家の中に入った。
オジサンに、そのままリビングにマフラーや上着を置くように言われ、案内された。
カントリー風なその部屋は、とても可愛くて、大きな暖炉もあって、まるでおとぎ話に出てくる隠れ家のような印象。
お店だけじゃなくて、家の中までオシャレなんて、さすがオジサン。
「ただ、材料が切れちゃってね〜。今日しゅーくんにおつかいを頼もうとしてたんだけど、風邪で寝込むことになるとは思わなくて」
「…あ、あの、わたし行ってきましょうか…?」
「いいよ、どうせお店の方で使う材料も欲しかったから、僕がこれから行ってくる。ただ、珠理の様子見にいけてないから、行ってみてくれないかな。寝てたらそのまま、転がしてればいいから」
「はい…」
つまりは、お留守番していてくださいってことなのかな。
転がしてればいいって、色々雑だけど。



