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いつもは、鎌倉駅から江ノ島電鉄に乗り換えているから、わざわざ学校帰りに鎌倉駅で降りるのは久しぶりだった。
リョウちゃんとの放課後デートの時は、よくあったことだけど、もう、それはなくなったわけで。
それ以外で、この道を通って行くのは変な感じ。
11月にさしかかって、さらに陽が落ちるのが早くなったように思う。まだ5時過ぎのはずなのに、辺りはもう真っ暗。
トンネルを潜って行かなければならない、ハニーブロッサムまでの道のりは、もっと暗かった。
人通りは多いからそのあたりは心配はないけど、寒さが増すような気がして、マフラーに顔を埋めて歩いた。
念のため、珠理のスマホにメッセージを送っておいたけど、未だに返信はない。…から、きっと、寝てるんだと思う。
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いつものように長い道のりを歩いて、ハニーブロッサムに着いた。
近海くんに言われた通り、お店の方はもう閉まっていたから、そのまま裏口に回る。
…ほんとだ、インターホンがある。この間、珠理が帰ってきて入ろうとしていた玄関だな。
「…」
なぜか、緊張する。木材でできた可愛らしい玄関を前に、少しの間立ち尽くしてしまって。
——ピンポーン…
やっと指先を伸ばして、そのボタンを押した。
「はーい」と男の人の声がして、ドアの向こうからトタトタと足音が聞こえてくる。きっと、オジサンだ。
少しずつ大きくなっていく音に比例するように、心臓が早くなってきたけど、それを打ち消すようにカバンを強く握った。
「あれ、めごちゃんじゃないの」
ガラリと開く扉。その中から出てきたのは、見慣れたオジサン。その優しい顔を見れて、少しだけ緊張が安心に変わった。



