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「…そっか。そういうことがあったんだね」



窓から、やさしい風が入ってくる、朝の教室。瀬名はいつもよりも30分早く学校に来て、わたしの話を聞いてくれていた。

本当は放課後で良かったのに、「部活もあるし、それまで待ってられない」と言って、いつもより1時間早起きしてくれたみたい。

そんな心やさしい親友の声に、わたしは小さく頷くことしかできなかった。

リョウちゃんとサヨナラをしたこと。それを改めて言葉にすることは、簡単ではなかった。



「でも、めご。今までそんなことをされてたなんて、わたし知らなかったよ」

「…、うん」

「それっていわゆる…、言葉は悪いかもしれないけど、暴力を受けていたってことだよね…」


わたしとリョウちゃんに、最大限の配慮をして、伝えてくれていることが分かる。瀬名の、そういう人の立場を考えて、気をつかうことができるところ、好き。

でも、だからこそ、瀬名には言いにくかったんだ。きっと、この子もわたしのために、悩んじゃうと思ったから。


「…高校に入ってから、たまにね、めごが顔を赤くして…腫らして学校にくるの、心配してた。めごは、ぶつけたとか、気のせいとか言って誤魔化してたけど」

「うん、ごめんね」


…好きな人から暴力を受ける。どうしても当てはまってしまうのかもしれない、わたしとリョウちゃんの関係。

今までこわくて、それについて調べたりしたこともないけれど、何かのテレビ番組で「当事者たちはそれが暴力と気づかない」と言っていたのを聞いたことがある。

…それは、完全にわたしのことだった。いや、気づいていることもあったけれど、それを今まで認めなかったのだから、気づかないのと同じだ。