「…めご、アンタって、ほんと小さい…」


ギュっと、抱きしめる腕に力を入れられて、珠理の匂いが濃くなった。もっとツクリモノのような匂いがするかと思ったけれど、案外自然な匂いだった。

180センチを優に越えるであろうその長身。わたしなんかすっぽりおさまってしまう。

だから、それが妙に落ち着いて、また、一粒涙がこぼれる。



「アンタって、ほんとに静かに泣くのね」

「—っ」


“初めて会った時も、そう思ったけど”

そうつぶやきながら、珠理は少し離れて、わたしの涙を拭ってくれた。

眉毛を下げて笑う珠理。優しい顔。その表情を見て、少しだけ心が落ち着くようになったのは、いつからだろう。


「…めご、」


珠理が、わたしの名前を呼んだのを合図に少しだけ太陽が隠れ始めた。

…これから、黄昏時がやってくる。

初めて珠理に会った時も、江ノ島で珠理が助けにきてくれた時も、全て黄昏時だった。だから、珠理を見ると、どうしてもこの時間を思い出す。


珠理はいつも、この時間に、わたしを助けにくる。



「…泣くのは、俺の前だけにして。そんな顔、他の奴には見せたらダメだから」



そして、甘い優しい声で、わたしを闇から掬い上げていくんだ。


この、底のない、暗い暗い海のような世界から。