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意味もわからないまま、お店を出て、来た道を戻るように珠理に手を引かれて進む。
「珠理、ねぇ、珠理ってば…!」
「——…」
さっきから呼びかけているのに、珠理はわたしの方を見ない。それどころか、手首を掴んでいる手に力を入れて、ずんずんと早足で進んでいく。
こんな珠理を、わたしは知らない。よくわたしに対してもぶつぶつ不満を言ったりするけれど、今の彼は、そうじゃない。
「珠理…、手、痛いよ」
「…!」
何かにハッとしたように、わたしの手を話してくれたのは、もう、鎌倉駅を目の前にした時。
ずいぶんと長い間、わたしはこのオネェに連れ去られていたらしい。
「…ごめんなさい」
ゆるりと、手首を掴む力を緩めて、珠理はぺこりと頭を下げた。
「………」
急に落ちる沈黙。わたしは、どうしても顔があげられなくて、そのまま繋がれた手を見ていた。
聞きたいことが、たくさんあるはずなのに。何も言葉が出て来ないのは何故だろう。
どうして、珠理はあのお店にいたの?
どうして、オジサンと仲が良さそうに話していたの?
どうして、突然わたしを連れ出したの?
…心の中に、「どうして」がたくさん生まれてくるのに。黙っている珠理を目の前にしたら、どうしても聞けない。
「…めご、」
「…!」
じゃり…と、時計台の下の地面を踏む。珠理の低い声がその地面を這うようにして、わたしに届く。
「…めご、アンタ、どうしてメッセージの返信くれないの」
「…っ」
「…ずっと待ってた。心配してたのに。連絡しろってあれほど言ったのに」
届く声は、いつもより低くて、響いて、少し怒りを含んでいる。
珠理が、ここまで怒ったことって、あまりない。いつもは優しいのに、オネェなのに、怒ると本当に男の人みたい。



