ひとつずつ、一口ずつ味わった。
美味しくて、たまらない。やっぱりわたしは、この味が好き。
本当は、ここに来るまで、ちゃんと来れるかなって心配だった。リョウちゃんのことで苦しくなって、来れなかったらどうしようって思ってた。
…でも、ちゃんと来れた。よかった。
オジサンが、ちゃんとひとつずつ丁寧に作っているケーキが、わたしの元気のみなもとなんだ。
寂しくなったら、また食べにくればいいんだ。このケーキとオジサンに会えれば、わたしは少しずつ、元気になれる気がする。
「あ———!思い出した!レアチーズケーキな!あれは確か俺じゃなくて……って、めごちゃん…?」
「……っ」
あれ、おかしいな。
ケーキ、すごく美味しいのに。優しい甘さなのに。なんで、こんなにしょっぱいの。
「…めごちゃん」
「…っう、」
ぽた、ぽた、と、せっかく出してくれたケーキに、涙が落ちていくから。
わたしはそれを慌てて拭って、下にいる可愛いケーキたちを守る。
でも、それでも大粒の涙は、止まってくれなくて。
「…ごめんなさ…、何でもない…」
「———…」
甘い甘い味を、壊していくように、しばらくはわたしの中から溢れ出てしまった。
・・・
涙が止まったのは、しばらく後のこと。昨日もあんなに泣いたのに、どこにしまってあったんだと思うくらい、それは溢れて。
だから、泣き疲れた後はカラカラになったのか、もう出て来ることはなかった。
「…あー、喉乾いた…はは」
わたしが泣いている間、仕事もそっちのけでわたしのそばにいてくれたオジサンに、笑いかける。
オジサンは何も言わずに、置いてあったフルーツティーをわたしの目の前に置いてくれた。
「…オジサン、お店はいいの?」
「ん?バイトに任せてあっから、気にしなさんな」
「…そっか」
ズズズ…と、フルーツティーを乾いた喉に流し込む。スッキリとした味が、口の中を涼しくしてくれた。
「あー、おいし。泣いたらスッキリしちゃった、へへ」
「そーか。そりゃあ、よかったよ」
「うん!」
オジサンは、何も聞かない。けど、きっと何か感じ取ったんだろうな。この人、カンが良さそうだし。



