「めごちゃん、お待たせ。って、お、食ってんな」
「…?」
出入り口から再び出て来たオジサン。手には、お皿を数枚抱えている。手のひらと腕にも乗せていて、どこかのレストランの人みたい。
それを、わたしが座っているテーブルに、次々と置いていく。
「これも、これも残り。それからこれは、冬に出す予定のやつな。あとは〜」
「?!」
そのひとつひとつのお皿には、いくつもの種類の違うケーキが乗っかっていて。
まるで、豪華なアフタヌーンティーのような、そんな風景が出来上がる。
「お、オジサン…これは一体…?」
「おっ、これ?いや、ウチにあったケーキの端っことか、試作品とか、そんなやつの詰め合わせだよ。めごちゃんさえよければ、食べちゃっていいよ」
「ええっ?!」
こんなにたくさんのケーキを出されたのは初めてだ。ていうか、どれも美味しそう…。まるで宝石が並べられているみたいだ。
「オジサン、神様だ…」
「あはははは。神様だって?嬉しいこと言ってくれるじゃん〜」
ミルクレープ、ロールケーキ、抹茶のタルト、ショートケーキにモンブラン。
色とりどりのそれらは、可愛くて、丁寧で、とても試作品や端切れとは思えない。
「オジサンのケーキ、本当に好き。試作品も全部美味しいよ」
「試作品?今まで何か出したことあったっけな?」
「あったよー。わたし、中学の頃に食べたレアチーズケーキが本当に本当に美味しくて、忘れられなくて…」
「…レアチーズケーキ?そんなん出したことあったっけな…」
考え込むオジサン。もう、何年も前に来た時だから、忘れちゃったかな。



