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「はい、おまちどお」
席についてすぐに、オジサンはフルーツタルトとフルーツティーを持って来てくれた。
「おまちどお」だって。笑っちゃう。牛丼屋さんみたい。
「ありがとうございます。それから、ここの席、とっても気持ちがいいね」
「そうだろー?本当は、俺たち店の者の休憩所として時々使ってんだけど、今回は特別な!めごちゃんだし」
「あはは、やったあ」
嬉しいけど、あんまりオジサンの顔見れないな。まぶた腫れてるし。きっと泣いたのバレちゃう。
でも、オジサンはそのまま、わたしの向かい側に「よっこらしょ」と腰掛けて、持って来た水をグビグビと飲んだ。
…休憩、なのかな。ちょうどお昼時だもんね。
「なんだ?食べないの?オジサンが食べちゃうぞ?」
思わずボーッとしていたのか、それに気づいたオジサンは、また大きく笑いながらわたしに言った。
「えっ?!え、それは、だめ!」
「わははは。じゃあ早く食って、早く元気になるこったな」
「…っ」
…やっぱり、気づかれてた。わたしが、いつもと違うこと。
「おっ、そうだ。めごちゃん、ちょっと待ってな」
「ん?」
何かを思い出したのか、オジサンは急にその場を立ち上がってどこかにいなくなった。裏側にも出入り口があるのか、そこからお店の中に入っていったようだ。
その間に、わたしはフルーツティーを飲んで、タルトをひとくちぶん、口に放り込む。
その瞬間、甘すぎない上品な甘さが口の中に広がった。
「んん…」
思わず、声が出てしまいそうなほど、美味しい。乗っている果物ひとつひとつが新鮮で、美味しくて、甘酸っぱくて。
それを乗せているタルト生地もカスタードクリームも、上に乗っかっているコーティングしたゼリーも全てが美味しい。
毎回毎回、感動する。珠理にも言ったけど、ここを越すケーキ屋さんは、絶対にないと思う。



