ヒミツにふれて、ふれさせて。



・・・


「いらっしゃいませ〜〜」


家を出てから、およそ1時間後。わたしは、ハニーブロッサムにたどり着いていた。

鎌倉駅西口から、歩いても結構かかるところにあるお店。
リョウちゃんの家と、昨日歩いた場所を通り過ぎるのは苦しかったけれど、それを抑えてようやくここまで来れた。



「…って、おっと、久しぶりだねぇ」

「———…」


店の奥から出て来たオジサン。名前は知らないけれど、少しだらしなくヒゲを伸ばしたこの人が、この店のオーナーだ。

…わたしは、この人の作るケーキが、本当に本当に大好き。


「めごちゃん、久しぶりだね。最近来てなかったから寂しかったよ」


ハハハ、と、豪快に笑う。こんな人が、あんなに丁寧に美しいものを手がけるのだから、意外だ。


「…うん、ごめん。今日、なんとなく学校休んでしまったから、ここに来たの」

「…」


数年前から、一緒に来ていたカレシと別れちゃいました、なんて、そんなこと言えるわけもない。

少しだけオジサンは、びっくりした顔をしていたけれど、次の瞬間には「そっかぁ!」と笑ってくれた。


「んじゃーあ、美味しいのいっぱい食べないとなあ!あ、良かったら裏のテーブルに座るかい?そこなら、学校休んでんのも、バレないし、なあ」

「ほんと?嬉しい。じゃあ…」


…レアチーズケーキ、ないかな。と思って探したけれど、今日もまだ出ていないみたいだ。

むう。じゃあ、いつものタルトにしようかな。


「じゃあ、このフルーツタルト。それから、フルーツティーのアイスをお願いします」

「はい、オッケー。じゃあ、そこの角を右に曲がったところに隠れテーブルあるから。そこに座っていなよ」

「はい、ありがとうございます」


他のお客さんもたくさんいるのに、わたしを気遣って少しだけ特別扱いされるのが、嬉しかった。