愛すべき、藤井。




俺を後ろに乗せてチャリこぐ夏乃が、たまに本気でキレて『藤井なんか大嫌いだ』って言うアレ。


今言われたら、余裕でショック死する気がする。
って、俺のメンタルは絹ごし豆腐か。誰が味噌汁に入れられてグッツグツだよ。



────電話Yo♪Yo♪Yo♪



突然鳴り出した着信音に、ベッドに横たわり頭の中で鍋の中で煮えたぎる味噌汁を想像していた俺は体を起こした。



さっきまで流れていた最新ラブソングも着信と同時に止まって、俺のお気に入りの着信音が愉快に部屋に響く。


スマホの画面を確認すれば【夏乃】の文字に、俺は一瞬固まる。



え、夏乃って、夏乃??


俺のこと避けてるあの夏乃??
なのに、自分から俺に電話って、なんだ??ついに絶交告げられんの?




「っ、もしもし?」



応答ボタンをスライドしてスマホを耳に当てれば


『っ……もしもし、藤井?』


「……うん」


懐かしく感じる、でも安心する……変わらない夏乃の声が、俺の耳を支配して、


俺は小さく返事をするのがやっとだった。
他に、なんて言えばいいか分かんなかったし、今まで電話でどうやって話してたかなんて、忘れたし。


ただ、どうしようもなく、胸が締め付けられて、



心臓がバクバクうるさい。