『香織』
藤井の口から出るそのワードは、今の私の心をこれでもかと乱す。
サラッと慣れたような口ぶりで、一体……何度その名前を呼んだんだろう。
「香織ちゃんって……」
藤井のなに?
そんなこと、私に聞く権利あるのかな?
そう思い止まって、私の言葉は宙に舞う。
なつめちゃんのことを気にしてないわけじゃない。どんな内容のLINEを送ってきてるのか、すごく興味があるし、
やっぱりまだ藤井のこと諦めてなかったんだ……って、何だか絶望にも近い感情すら抱いた。
だけど、そんなことより。
なつめちゃんを申し訳なくも"そんなこと"呼ばわり出来てしまうほどに、
「香織は、中学の時に一緒だったんだ。当時は家も結構 近所でさ」
「へぇ……そうなんだ」
『香織』の存在を気にしてる。
一緒に帰ったりしてたのかな?とか、勝手に想像してはまた泣きたくなる。
なーんだ。
どこかで私が特別だなんて思ってた自分を鼻で笑う。藤井にとって、今も昔も変わらず特別なのは『香織』なのか。
だから、私のことは……。
やけに納得のいく答えを急に突きつけられて、ハハッと乾いた笑いが漏れる。こんな私は藤井の目にどう映るのか……考えても分からないことは、考えないことにした。
って、今のちょっと藤井っぽくなかった?


