愛すべき、藤井。



「そっか」とだけ呟いて、なるべく気にしないように……と、キョクナビに最近人気のある女性バンドの名前を打ち込む。


こういう時はロックだ。
ヘドバンしまくったら、藤井の記憶だけ消えてくれないかな。


藤井を好きでい続けるよりも、きっともっと、ずっと楽なのに。


「なぁ、夏乃」

「……ん?」



呼んだだけじゃ、カラオケの音に負けて聞こえないと思ったのか、藤井はキョクナビに入力していた私の肩を、トントンと叩いて


「あのさ」


と続けた。


少し伏し目がちなその目に、私はただ純粋になんだろうと思った。


「どうした?」

「……3組の、高峯なつめ」

「え……?」

「お前、言ってたじゃん。ほら、その……あの、俺に告って……くれた……日に」


そこまで言った藤井の顔は、カラオケルームの薄暗い明かりの中でも分かるくらい真っ赤に染まっていて、何だか私にまで伝染してしまいそうだ。



「なつめちゃんがどうしたの?」

「……お前、俺の連絡先教えた?」

「は?……ううん、教えてない」

「は、まじ?」



『あ!藤井、そう言えば3組のなつめちゃんが……』


あの日、私が藤井に勢いで告白してしまった日、私は確かになつめちゃんが藤井の連絡先を知りたがってるらしいって、言った。