如月先輩は、覚えてるとも覚えてないとも言わずただ無言で再び色ぬりを再開する。


「……図書館で、先輩に本をとってもらって。えへへ」


「……」


ちらっと先輩の顔を確認するけど、安定の無反応。やっぱり覚えていないよなぁ。


「その時から、ずっと好きで。もう一度、あの時見せてくれた笑顔を見たいって、思っちゃって」


「そういうことサラッと言えるんだったら、お前のこと1人置いていくようなクラスメイトにもガツンと言ってやったらどうなんだ」


「っ、ハハッ。ですよね」


うまく笑えない。
どんなに好きだって思いを伝えたって先輩にはまったく届かない。


他の人たちよりすごく特別な存在だからこそ、気持ちが溢れて我慢できなくなっちゃうのに。



「俺は、来原が思ってるほどいい人間じゃないから」


先輩は静かにそういうと、また目をそらしてベランダのコンクリートを見つめた。