「毎回、結城先生ならいいのに」


講義が終わると、教室から出てくる生徒が頬を染め話している。


「わたしも手を添えて教えてほしい」


「今日も誰かの?」


「うん、今日は30代のオバサン」


「10分くらいつきっきりだった」


「だから、わたしの列まで回って来なかったんだ」


「何で週3時間しか教えてないのかな。毎時間、結城先生がいいな」


会長代行とパソコン教室の教務課に向かいながら、笑みがこみ上げる。


「あのさ。週に何度か来てる作家のオジサンいるじゃん」


「ミステリー作家の?」


「そうそう、聞いたんだけどね。結城先生、結城コンツェルンの会長代行らしいよ」


「ウソ!?」


「会長が心筋梗塞で入院した時から。出版社を辞めて会長を支えてるし、結城くん自身も体が弱いから週3でいっぱいいっぱいだよって」