「詩乃には……病状は変わりない、とごましかしている。主治医にも口止めしている」


「いいんですか? お姉様なのに」


「姉だからこそ、知らせないこともある……先日の騒動は覚えているだろう」


会長代行は胸に手を当て立ち上がろうとし、バランスを崩し、よろめいた。


元さんが「まだ動くな」と叫んだかと思うと、ガタンと音を立て椅子を蹴り、会長代行を支えた。


「だからと言って、どうしてそこまで……」


「詩乃を悲しませたくないから、心配させたくないからだ」


「お姉様……家族なんだから、心配するのは当たり前じゃないですか」


「あの様子──異常なのは君も感じたはずだ」


「それは……そうですけど」


「詩乃は俺のことになると、自分のことを放り出して駆けつけてくる……詩乃には俺のことなんかより、詩乃自身が幸せになってほしい」