「やっと終わった~」

会長代行は黒田さんが退室した後、大きく背伸びした。

椅子を窓側にクルリと回転させて、手足を伸ばす。

「久々に景色を拝む気がする」

正直な実感だろうと思った。

「ひと息入れますか? 黒田さんからタルトをいだだきました。神保町の……ここの洋菓子は甘過ぎなくて美味しいです」

会長代行の背中に向かって、言ってみた。

「黒田さん好みの味らしい。西村先生たちも、いつも楽しみにしておられた」

「そうなんですね」

「秘書室の方にも……数はじゅうぶん足りるだろ?」

会長代行は向き直って言った。

「はい。たくさんいただいています」

「残ったぶんは適当に分けるといい」

「はい。では用意してまいります」

フッとひと息つく時に会長代行が見せる笑顔が好きだなと思う。

束の間の、ほんの一瞬の笑顔だ。

見逃せば、見ることができない貴重な笑顔だ。